2025年7月13日
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2種類の増資~新株発行と利益の資本組入~

365日ブログ
2,904日目
公認会計士・税理士
畑中 外茂栄です
前日、
顧問先の方で対外的な信用力向上を狙って、
増資のご相談を受けました。
いわゆる増資とは、資本金を大きくすることです。
この増資には、
「新株発行」と「利益の資本組入れ」
の2つの方法があります。
それぞれ異なる特性があります。
1. 新株発行増資
新株発行増資は、新たに株式を発行し、
外部投資家や既存株主から資金を調達する手法であり、
企業に新たな現金資産が直接流入します。

目的と適用状況
- ベンチャー企業および創業期の企業: 信用力や担保資産が限定的であるため、株式を活用した資金調達が主要な選択肢となります。
- 高額な資金需要: 大規模な設備投資や新規市場開拓など、多額の資金を要する事業活動において活用されます。
- 株式公開(IPO)の準備: 公開市場からの大規模な資金調達を目指す際に実施されます。
- 事業拡大: 自己資金や内部留保だけでは不十分な場合に検討されます。
利点
- 新たな資金流入: 企業キャッシュフローに直接的に現金が加わり、事業拡大や債務返済に充当可能です。
- 返済義務の不存在: 負債とは異なり、元本返済や利息支払いの義務がないため、企業のキャッシュフローに対する負担が軽減されます。
- 信用力の向上: 自己資本の増強により財務体質が改善され、金融機関からの評価が高まり、将来的な借入条件が有利になる可能性があります。
- 戦略的パートナーシップの構築: ベンチャーキャピタル等の投資家は、資金提供に加えて、経営に関する専門知識、ネットワーク、および企業の信頼性向上に貢献する場合があります。
課題点
- 既存株主の希薄化: 新規株式の発行により、既存株主、特に創業者の持株比率および議決権が希薄化します。この希薄化は、一度発生するとその是正が極めて困難である場合があります。
- 投資家からの要求と制約: 投資家は、出資の対価として、優先株式の保有、取締役会へのオブザーバー派遣、特定の意思決定に対する拒否権、情報開示義務の賦課など、多様な権利や条件を求めることがあります。
- 手続きの複雑性: 株主総会での特別決議、投資契約書の締結、デューデリジェンスなど、多くの法務・会計上の手続きと時間を要します。
2. 利益の資本組入れ
利益の資本組入れは、企業が計上した利益剰余金のうち、
配当に充当されずに社内に留保された資金を、
株主総会の決議等を経て資本金または資本準備金に振り替える会計上の処理です。
この手法は、外部からの新たな資金流入を伴いません。

目的と適用状況
- 安定した利益を継続的に計上している企業: 内部資金による成長を重視する自己資本経営を志向する企業に適しています。
- 内部資本の強化: 外部からの資金調達に依存せず、内部留保を活用して資本基盤を強化したい場合に用いられます。
- 財務健全性の対外的な表明: 法定資本を増加させることで、企業の安定性を対外的に示す目的で実施されることがあります。
利点
- 既存株主の希薄化の回避: 新規株式の発行を伴わないため、既存株主の持株比率が希薄化することはありません。
- 外部からの制約の不在: 外部投資家からの出資ではないため、投資条件やガバナンスに関する制約を受けることがありません。
- 手続きの簡便性: 外部との交渉が不要であり、内部での会計処理と法的な手続きのみで完結するため、新株発行に比べて手続きが簡素です。
- 財務健全性の対外的なアピール: 資本金の増加は、企業の安定性や信用力の向上を示唆し、金融機関等からの評価に好影響を与える可能性があります。
- 資金の恒久的な固定化: 利益を資本に組み入れることで、当該資金が企業に恒久的に留保され、事業活動に安定的に利用されることが明確化されます。
課題点
- 新たな現金流入の不在: 会計上の振替に過ぎず、手元現金が増加することはありません。したがって、資金不足を直接的に解消する手段とはなりません。
- 配当可能利益の減少: 利益剰余金が資本に組み入れられるため、将来の株主への配当に充当可能な利益が減少します。
- 収益性への依存: 十分な利益が継続的に発生していることが前提となるため、赤字企業や創業期で利益が未計上の企業には適用できません。
3. 最適な増資手法の選択
企業の成長ステージや状況に応じて、
最適な資本構成を総合的に判断していきましょう
公認会計士・税理士
畑中 外茂栄