2025年12月31日

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経営判断の基準を作る考え方


目に見えない5つの在庫コスト


公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄です。



在庫管理で多くの経営者が見落としがちなのが、「在庫コスト」の全体像です。



仕入れ時に発生するコストだけでなく、在庫が倉庫に眠っている間に発生する“目に見えないコスト”が、企業の収益性をじわじわと削っているケースは少なくありません。



今回は、在庫がもたらす5つのコストを整理して解説します。





1. 調達コスト(選別コスト・発注コスト)

最初に発生するのが調達コストです。



商品選定にかかる時間や人件費、発注処理の手間が該当します。



多くの企業では人件費を固定費として捉えるため、ここが軽視されがちです。



「社員は給料をもらっているのだから、発注作業に時間をかけても追加コストは発生しない」という発想ですね。



ただし現実は、発注作業に時間を使えば、その分だけ他の業務に充てられる時間が減ります。



これは機会損失です。



発注頻度が上がるほど、現場の集中力と生産性は確実に削られます。




2. 保管コスト(賃借料・保険料・水道光熱費・リース料・人件費)



次に発生するのが保管コストです。



倉庫の賃借料、保険料、水道光熱費、リース料、在庫管理に携わる人件費などが含まれます。



ここも固定費扱いされやすく、「倉庫は借りているのだから在庫量に関係なくコストは同じ」と考えがちです。



確かに賃借料自体は一定かもしれませんが、在庫が増えれば管理工数は増えます。



結果として、棚入れ・ピッキング・棚卸し・移動・整理などの負担が膨らみ、人件費(または残業)が増えます。

逆に在庫が少なければ、そもそも倉庫を縮小できる可能性も出てきます。




3. 資本コスト(支払利息・機会費用)



3つ目は資本コストです。



在庫を抱えるということは、資金が商品という形で固定化されている状態です。



借入で仕入れているなら支払利息が発生します。



それでも「在庫は資産だから問題ない」と思い込む企業は多いですが、資産であることと“コストがない”ことは別問題です。



在庫は売れて初めて現金化されます。売れるまでの間、資金は回収できず、資金調達コストだけが積み上がります。

在庫回転率が低いほど、このコストは効いてきます。




4. 維持コスト(陳腐化・不適応化・棚卸減耗損)



4つ目は維持コストです。



長期保管により、商品の価値が落ちたり、売れ筋から外れたり、品質劣化が進んだりします。



棚卸しで判明する破損・紛失などの棚卸減耗損もここに含まれます。



「まだ売れるはず」と思って持ち続けるほど、価値は下がりやすい傾向があります。



流行遅れ、規格変更、技術陳腐化、外装の傷みなど、時間は在庫の価値を確実に削ります。




5. 廃棄コスト(廃棄損・処分費)



最後が廃棄コストです。



売れ残りを廃棄する際に発生する損失で、企業にとって最も痛い結末です。



廃棄に至るまでに、調達コスト・保管コスト・資本コスト・維持コストをすでに支払っています。



そのうえで「最後に廃棄損」まで確定するので、損失が最大化します。



さらに廃棄処理そのものの追加費用もかかりますし、環境対応の観点から処分費が上がる傾向もあります。




在庫コストの全体像を把握する重要性



以上、5つの在庫コストを見てきました。



1→5に進むほど損失が拡大しやすい、という構造がポイントです。



つまり、在庫の適正化は「早いほど効く」。これが結論です。



在庫管理では、目に見えるコストだけでなく、こうし見えないコスを前提に意思決定する必要があります。



「固定費だから」「資産だから」と見過ごさず、在庫が生む真のコストを把握したうえで、適正在庫の維持に取り組むことが、収益性の改善に直結します。

 


公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄

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