2025年12月4日

カテゴリー:

融資&創業融資


決算書に頼らない「データドリブン融資」時代の資金調達術


公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄です。



「決算書が揃うまで融資の審査が進まない」

「過去の数字しか見てもらえない」



そんな中小企業の資金調達の常識が、今、大きく変わろうとしています。



売上データやPOS、クラウド会計などの「生きたデータ」をリアルタイムに分析して融資を実行する「データドリブン融資」が拡大しています。



決算書に依存しない新しい融資モデルは、中小企業の資金調達の選択肢を広げる一方で、注意すべきリスクも潜んでいます。





データドリブン融資とは何か



従来の融資モデルの限界



これまでの中小企業融資は、主に以下の2つの要素に依存してきました。



  • 過去の決算書:前年度や前期の財務諸表を基にした与信判断
  • ・代表者保証:経営者の個人保証を前提とした融資



このモデルには、以下のような構造的な課題がありました。



  • ・決算が確定するまで資金調達の判断ができない
  • ・過去の数字しか見てもらえず、現在の経営状況(足元の改善など)が反映されにくい
  • ・創業間もない企業や、一時的に業績が不安定な企業は融資を受けにくい
  • ・資金需要のタイミングと融資実行のタイミングがずれる



データドリブン融資の仕組み



これに対し、データドリブン融資は以下のような**「生きたデータ」をリアルタイムに分析して与信判断を行う新しいモデルです。



▼ 活用されるデータの例



  • 売上入金データ(銀行口座への入金履歴)
  • ・仕入支払データ(取引先への支払い履歴)
  • ・POSデータ(リアルタイムの店舗売上状況)
  • ・ECプラットフォームの売上データ(Amazon、楽天などの実績)
  • ・クラウド会計ソフトの取引データ(freee、マネーフォワードなど)



これらのデータをAIや機械学習で分析し、少額・短期の融資をスピーディーに実行します。例えばとある銀行の事例では、決算書そのものには依存せず、日々の取引データから企業の資金繰りや収益性を評価する仕組みを採用しています。




データドリブン融資がもたらす変化



中小企業にとってのメリット



データ活用による融資は、中小企業に3つの大きなメリットをもたらします。



① 資金調達のスピードアップ 決算書の完成を待たずに、リアルタイムのデータで融資判断が可能です。突発的な資金需要にも迅速に対応できます。



② 過去の業績に縛られない評価 「過去」ではなく「現在」の経営状況が反映されます。創業間もない企業や、V字回復中の企業にもチャンスが広がります。



③ データの整備が資金調達力に直結 日々のデータを整えることが、そのまま信用力につながります。「決算書をきれいに作る」だけでなく、「日々のデータを正しく連携する」ことが重要になります。



金融機関にとってのメリット



一方、融資する側の金融機関にもメリットがあります。



  • リスク管理の高度化:リアルタイムデータで経営状況をモニタリングし、早期のリスク察知が可能。
  • ・審査コストの削減:人手によるアナログな審査を自動化し、少額融資の採算性を改善。
  • ・新規顧客の開拓:従来の指標では評価できなかった層へアプローチが可能。




データドリブン融資のリスクと注意点



非常に便利なデータドリブン融資ですが、経営者として知っておくべきリスクもあります。



リスク①:資金調達格差の拡大

データ連携が進んだ企業と、そうでない企業(現金商売のみ、アナログ管理のみ)で、資金調達力に大きな差が生じます。デジタル化への対応が遅れると、従来以上に不利な条件になる可能性があります。



リスク②:プラットフォーム依存のリスク

特定のプラットフォーム(ECサイトや会計ソフト、特定の経済圏)に与信データが集中すると、他行への乗り換えがしにくくなる「ロックイン効果」が働きます。条件が悪化しても他の選択肢が取りづらくなる恐れがあります。



リスク③:突然の与信縮小リスク

AIモデルの変更やシステム障害、あるいはデータの解釈基準が変わることで、ある日突然「貸出枠」が縮小されるリスクがあります。人間の担当者のような「情状酌量」や「交渉」が通じにくい側面があります。




中小企業が取るべき実践的な対策



この時代を生き抜くために、中小企業は以下の対策を講じておくことを強く推奨します。



対策①:データ基盤の整備(「見せるデータ」を作る)



金融機関やAIが評価しやすい形にデータを整えます。

  1. 1.クラウド会計ソフトの導入 (freee、マネーフォワード、弥生などを用い、日々の取引をリアルタイムで記帳する)
  2. 2.キャッシュレス決済の導入 (クレジットカードやQR決済を導入し、売上データをデジタル化・可視化する)
  3. 3.銀行口座の集約・整理 (入出金の動きがAIに読み取られやすいよう、メイン口座に商流を集める)



対策②:複数の資金調達手段の確保(リスクヘッジ)



「AI融資」だけに頼らず、アナログな人間関係も維持します。

  1. 1.複数の金融機関との取引 デジタル銀行だけでなく、地域の信用金庫や地銀とも関係を持ち、担当者と顔の見える関係を作っておく。
  2. 2.制度融資の活用 日本政策金融公庫や信用保証協会の融資など、公的なセーフティネットも確保する。



対策③:資金繰り管理の徹底



AIは「資金ショートの兆候」を敏感に察知します。



  1. 1.資金繰り表の作成と運用 3ヶ月先、6ヶ月先の予測を立て、資金が不足する兆候が出る前に手を打つ。
  2. 2.早期の資金調達 「お金がなくなってから」ではなく、「あるうちに」借りるのが鉄則です。




まとめ:データドリブン融資時代の経営戦略



データドリブン融資は、中小企業の資金調達を劇的に便利にする可能性を秘めています。しかし、それは「デジタル化に対応できた企業」への恩恵でもあります。



  1. 1.データ基盤の整備:クラウド会計やキャッシュレス化を進める
  2. 2.マルチチャネル化:一行依存を避け、デジタルとアナログの両面で資金調達ルートを持つ
  3. 3.自律的な資金管理:AIに見られても恥ずかしくない資金繰りを行う



「決算書対策」と同じくらい、「データ連携対策」が重要な時代になりました。



まずは自社の経理・決済環境を見直すことから始めてみましょう。


公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄

  • 【無料診断】ドンブリ経営レベル5段階
  • 【無料メール講座】7日で学ぶ!ドンブリ経営から脱却するための最初の一手
  • 【1on1個別セッション】会社の経営数字について学ぶ!

月別記事

MONTH