2025年12月2日

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出口戦略と財務戦略


財務諸表を「調達→投資→回収」のサイクルで理解する会計の捉え方


公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄です。 



決算書には、財務三票といって貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書(CF)があります。


決算書を見ても、



「数字の羅列にしか見えない」

「どこから読めばいいかわからない」



という経営者の方は少なくありません。



そこでおすすめしたいのが、財務諸表を「調達」「投資」「回収」というサイクルで捉える考え方です。



  • ・調達:お金をどこから集めてくるか
  • ・投資:集めたお金を何に使うか
  • ・回収:使ったお金をどのように回収するか



この3つで見ると、会計が一気に「経営のストーリー」として見えてきます。




1. 「調達」=お金をどう集めているかを見る(主にBS+CF)



まず最初は調達(ファイナンス)です。


会社は、次の2つの方法でお金を集めています。



  1. 1.他人資本(借金):銀行借入、社債、買掛金 など
  2. 2.自己資本(自前のお金):資本金、利益剰余金 など



貸借対照表で見る「調達」の基本



貸借対照表の右側(負債・純資産の部)は、まさに「調達の内訳表」です。



  • ・短期借入金・長期借入金 → 銀行などから借りたお金
  • ・未払金・買掛金 → 仕入先から“ツケ”で調達しているお金
  • ・資本金・利益剰余金 → 自分たちが会社に入れた、または稼いで貯めたお金



ここで経営者がチェックしたいポイントは、



  • 借入金は多すぎないか?
  • ・短期資金で長期投資をしていないか?(返済期限のミスマッチ)
  • 利益は出ているのに、自己資本が薄くなっていないか?



「うちは借金が少ないから安心」と思っていても、自己資本も少なければ危険信号です。


適切な調達バランが取れているかを見るのが会計の第一歩です。




2. 「投資」=お金を何に配分しているかを見る(主にBS)



次に、集めたお金を「何に投資しているか」を見ます。



貸借対照表の左側=投資の配分表



貸借対照表の左側(資産の部)は、「投資配分表」と考えるとわかりやすいです。



  • ・現金預金 → いつでも使える余裕資金
  • ・売掛金 → 売上を出すために与えている“回収待ちのお金”
  • ・在庫 → 将来の売上のタネ
  • ・有形固定資産(機械・建物など) → 長期的に売上を生む設備投資
  • ・無形資産(ソフトウェア等) → IT投資やブランド・仕組みへの投資



ここでのチェックポイントは、

  • 投資のバランスは経営戦略と合っているか?
    • 製造業なのに設備が古く、在庫だけ膨らんでいないか
    • 小売業なのに在庫回転率が極端に悪くなっていないか
  • 死に金(遊休資産)が眠っていないか?
    • 使っていない土地・建物、ほぼ使われていないシステムなど



「調達したお金が、どの資産にどれだけ張られているのか」を見える化すると、どこにお金をかけすぎているか・足りていないかが見えてきます。




3. 「回収」=投資はちゃんとお金になっているかを見る(PL+CF)



最後が一番重要な「回収」です。



ここで見たいのは、投資したお金が、利益やキャッシュとしてきちんと戻ってきているか?という視点です。



損益計算書で見る「回収」の結果



損益計算書(PL)は、1年間の回収の結果報告書と捉えましょう。



  • ・売上高 → 投資した資産(人・設備・在庫)が生み出した売上
  • ・売上総利益 → 商品・サービスの「粗利」
  • ・営業利益 → 本業で稼げているかどうか
  • ・経常利益 → 本業+財務活動(利息など)を合わせた稼ぐ力



ここでのポイントは:



  • ・売上は伸びているのに、利益率が下がっていないか?
  • ・人件費・原価・販管費が、売上の伸びに対して重くなりすぎていないか?



キャッシュフローで見る「本当の回収」



さらに一歩進んで、キャッシュフロー(CF)で「現金ベースの回収」を確認します。



  • ・営業キャッシュフロー:本業で現金が増えているか
  • ・投資キャッシュフロー:設備投資などで現金が減っていないか
  • ・財務キャッシュフロー:借入や返済で現金がどう動いたか



理想形は、



  • ・営業CF:プラス
  • ・投資CF:マイナス(未来への投資)
  • ・財務CF:マイナス(借入返済・配当など)



本業の稼ぎで投資と借金返済を回している状態です。




4. 「調達→投資→回収」の3つをつなげて見る



ここまでをつなげると、



  1. 1.調達:どこから、どれだけ資金を集めたか(BS右+CF財務)
  2. 2.投資:集めた資金を何に配分したか(BS左+CF投資)
  3. 3.回収:その投資が利益・現金として戻ってきたか(PL+CF営業)



という1つの循環(サイクル)として、財務諸表が読めるようになります。



よくあるNGパターン



  • ・調達:借入は少ないが、自己資本も薄く、資金クッションがない
  • ・投資:在庫や売掛金が多く、お金が“売掛・在庫の山”に埋もれている
  • ・回収:売上はあるのに利益が薄く、営業CFがマイナス



この状態で新たな借入や投資を重ねると、「売上はあるのにお金がない会社」まっしぐらです。




5. まずはこの3つだけ押さえる「簡単チェックリスト」



経営者の方が毎期・毎月チェックするなら、まずは次の3つから始めてみてください。



① 調達の健全性

  • ・自己資本比率は20%以上あるか
  • ・短期借入で長期投資(設備など)をしていないか
  • ・調達金利の確認



② 投資の妥当性

  • ・売掛金・在庫は売上の何か月分かを確認
  • ・遊休資産(使っていない土地・機械など)はないか
  • ・IT、人材、設備投資は、将来の売上・効率化に結びついているか



③ 回収の確実性

  • ・営業利益は黒字かつ、営業キャッシュフローもプラス
  • ・売上総利益率・営業利益率は前年より悪化していないか
  • ・借入返済額を、営業キャッシュフローで十分カバーできているか




6. 「会計=過去の数字」ではなく「経営のサイクル」を見る



多くの中小企業では、決算書は「税金を計算するための書類」として扱われがちです。


しかし、調達→投資→回収のサイクルで財務諸表を見ると、



  • ・どこから資金を調達し
  • ・どこに優先的に投資し
  • ・どう効率よく回収していくか



このサイクルを意識して数字を見ることで、「なんとなくの勘」ではなく、数字に裏付けされた意思決定ができるようになります。



公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄

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