2025年10月19日
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従業員と役員──“契約”と“立場”の違い

365日ブログ
3,002日目
公認会計士・税理士
畑中 外茂栄です。
従業員と役員は、
・権限や責任
・周囲からの期待・目線
・法的・契約的な立ち位置
まで、大きく異なります。

契約関係/法律上の地位の違い
従業員の場合、会社と「雇用契約」を結び、労働者として指揮命令を受け、労働基準法などの保護を受ける立場です。
しかし、役員となると、会社と「委任契約(またはこれに準じた契約)」という関係になるのが原則です。
その結果、役員は「労働者」としての保護を受けないケースがあるため、従業員時代とは契約関係・保護・責任のあり方が根本的に変わります。
具体的な変化ポイント
以下、役員に就任することで肌で感じやすい変化を整理します。
・保護と制度の適用が異なる
従業員は雇用契約に基づき、雇用保険・労災保険・最低賃金・時間外手当・休憩・休日といった労働基準法上の制度適用があります。
一方で、役員はこれらの制度適用を原則受けないことが多く、例えば雇用保険・労災保険の対象とならないことや、残業代の基準がない等の扱いになります。
この点だけでも、従業員時代と比べて“安全網”が変化している感覚があるはずです。
・責任、義務の範囲が拡大・深まる
従業員としての管理職であったとしても、基本的には指示を受けて遂行・監督という枠内にありました。
役員になると、会社法上の義務として「善管注意義務」「忠実義務」などが発生します。
つまり、単に“部下を管理する”立場から、“会社組織を任される”“会社全体のリスクと成果を背負う”立場へと変わるわけです。
・マネジメント/視点の変化
従業員としての管理職では「部下を動かす」「業務を効率化する」「成果を出す」が主な視点だったかもしれません。
役員としては、「組織・人財を経営資源として捉え、彼らの能力を如何に引き出し、組織全体の価値を最大化するか」へと視点が変わってきます。
つまり、「人を管理する」から「人を活かす」へ、そして「個々の業務遂行」から「会社の方向性・戦略実行」へ。役割が変わるというより、視点そのものが変わるのです。
意識すべき役員としてのマネジメント視点
役員という立場を最大限活かすために、次のような視点を持つことをおすすめします。
1.人財を守る・管理するだけでなく、育て・成長させる
部下を「従わせる」だけのマネジメントでは、役員の立場には不十分です。人ひとりひとりが会社の戦略に沿って最大の力を発揮できるよう、環境・機会・挑戦を設けることが重要です。
2.契約・期待・責任の枠組みを明確化する
役員の契約関係は従業員とは根本的に異なるため、部下・メンバーに対しても「何を期待し、どのように評価し、どこまで責任を負うか」を明確にする必要があります。曖昧なままでは、混乱やトラブルを引き起こしかねません。
3.ガバナンス・リスク管理の視点を持つ
役員には法的責任・経営判断責任が伴います。未然防止・モニタリング・情報収集・意思決定プロセスの透明性が求められます。特に、利害関係の所在や役員報酬・決算対応など、税務・会計・法務領域も意識する必要があります。
4.視点を“自分の業務”から“組織の未来”へ移行する
従業員時代の「目の前の仕事をこなす」マインドから、「会社がどこに向かうかを描き、人財をその中に配置して動かす」マインドへ転換が必要です。
役員になった今こそ、「この会社で、どのように人財を戦略的に活かすか」「この組織をどう成長させるか」に主眼を置きましょう。
注意すべき点:執行役員・兼務役員の扱い
なお、役員と一概に言っても、法的に「役員(取締役等)」とされるか、「執行役員」など会社法上の役員に該当しないポジションかによって契約形態・法的地位が違います。
例えば、執行役員は雇用契約を結んでいるケースもあり、「従業員に準じた立場」となる場合もあります。こうした区別を理解して、自らの契約・責任範囲を明確にすることが重要です。
おわりに
従業員と役員は、その立場から契約関係、法的責任、視点、マネジメント対象等が変わります。
特に従業員から役員へ就任した場合など、認識を揃えておくことが大切です。
公認会計士・税理士
畑中 外茂栄