2025年12月14日

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成果を出す考え方


キリンホールディングスの「AI役員」導入の事例をヒントに、中小企業の経営の質を高める


公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄です。 



2025年、キリンホールディングスが経営戦略会議に12の異なる人格を持つ「AI役員」を導入したという興味深い記事を見ました。



社長に対しても忖度せず、多角的な視点を提供することで意思決定の質を高める。



この取り組みは、日本の経営文化に新たな風を吹き込む可能性を秘めています。



本記事では、この革新的な試みの背景や意義を解説しつつ、中小企業がこの事例から何を学び、明日の経営にどう活かせるのかについて深掘りしていきます。



キリンホールディングスの「AI役員」とは



12の異なる人格を持つAIシステム



キリンホールディングスが導入したAI役員は、単一のAIではなく、12の異なる「人格(ペルソナ)」を持つシステムであることが大きな特徴です。



なぜ「忖度しない」意思決定ができるのか



従来の経営会議では、社長や上席役員の意見に対し、他の役員が無意識に忖度(相手の気持ちを推し量って同調すること)してしまうケースが少なくありませんでした。



しかし、AI役員には以下の強みがあります。



  1. 1.感情を持たない:人間関係や社内政治を気にせず、純粋に論理的な判断ができる
  2. 2.データに基づく:感情や先入観ではなく、事実データに基づいて意見を述べる
  3. 3.多角的な視点:12の異なる人格が、死角のない角度から問題を分析する
  4. 4.一貫性のある判断:その日の気分や体調に左右されず、判断基準がブレない



これにより、より客観的で、かつ見落としのない意思決定が可能になると期待されています。




なぜ今、AI役員なのか



1. 経営環境の複雑化(VUCA)



現代の経営環境は、かつてないほど複雑になっています。



  • グローバル化:各国の規制や文化への対応
  • 技術革新の加速:AI、IoTなどの新技術への適応
  • ステークホルダーの多様化:株主だけでなく、環境や地域社会への配慮
  • ・不確実性の増大:パンデミックや地政学リスクなどの予測不能な事態



このような環境下では、優秀な経営者であっても、一人(あるいは少数の人間)の判断だけでは見落としや偏りが生じるリスクが高まっています。



2. 意思決定の「質」を高める必要性



企業の存続には、意思決定の質が直結します。



  • スピードと正確性の両立
  • ・認知バイアス(思い込み)の排除
  • ・リスクと機会の網羅的な把握



AI役員は、人間の脳だけでは処理しきれない情報を整理し、これらの課題を解決するパートナーとして導入されました。



AI役員導入の効果と課題



期待される3つの効果

  1. 1.意思決定の質の向上
    • 人間では気づかなかったリスクや機会の発見
    • データと事実に基づいた透明性の高い議論
  2. 2.経営会議の効率化
    • AIによる事前分析で、会議の準備時間を短縮
    • 論点が明確になり、感情的な議論や無駄な時間を削減
  3. 3.組織文化の変革
    • 「忖度なし」の意見が飛び交うことで、風通しの良い文化へ
    • データドリブンな経営スタイルの定着



想定される課題とリスク



一方で、AIは万能ではありません。以下のような課題も考慮する必要があります。



  • データの質への依存:入力データが古かったり偏っていたりすれば、AIの判断も誤る。
  • 責任の所在:AIの提案で失敗した場合、誰が責任を取るのか。最終決定権は人間が持つ必要がある。
  • ・創造性の限界:過去のデータに基づかない、全く新しいイノベーションの発想は苦手な場合がある。



中小企業への示唆:明日から使える「AI参謀」



「AI役員の導入は大企業だけの話」ではありません。中小企業であっても、ChatGPTやClaudeなどの生成AIを活用することで、擬似的にAI役員を持つことが可能です。



実践:生成AIを活用した「多角視点」の獲得



ChatGPTなどの対話型AIに、特定の「役割(ペルソナ)」を与えて壁打ちを行う方法です。



プロンプト(指示)の例:



【意思決定のテーマ】 来季発売する新商品の価格設定(A案:高価格帯、B案:中価格帯)について悩んでいます。



【AIへの依頼】 あなたは優秀な経営コンサルタントチームです。以下の4つの視点から、それぞれの案に対するメリット・デメリットを指摘してください。



  1. 1.財務の専門家:収益性の観点から
  2. 2.マーケティングの専門家:顧客の受容性とブランディングの観点から
  3. 3.競合分析の専門家:競合他社との比較観点から
  4. 4.リスク管理の専門家:在庫リスクや撤退ラインの観点から



このように質問を投げるだけで、自分一人では思いつかなかった視点やリスクへの指摘を数秒で得ることができます。



中小企業が取り入れるべき習慣



  1. 1.データドリブンな判断: 「勘と経験」だけでなく、KPI(重要業績評価指標)などの数字に基づいて判断する癖をつける。
  2. 2.外部専門家の活用: AIだけでなく、税理士や中小企業診断士など、社外の専門家の意見を積極的に取り入れ「第三者の視点」を確保する。
  3. 3.意思決定プロセスの記録: 「なぜその決定をしたのか」を記録に残し、後からAIや第三者と共に検証できるようにする。



まとめ



キリンホールディングスの「AI役員」導入は、単なる技術の導入ではなく、「忖度を排除し、多角的な視点で経営判断を行う」という決意の表れと言えます。



中小企業にとっても、これは対岸の火事ではありません。



高額なシステムを導入しなくとも、生成AIを活用したり、意識的に多角的な視点を持ったりすることで、意思決定の質は確実に高まります。



重要なのは、AIに全てを任せることではなく、AIを「忖度しない参謀」として使いこなし、最終的に人間が責任を持ってより良い決断を下すことです。



ぜひ皆さんの会社でも、今日から「AIへの壁打ち」を経営判断のプロセスに取り入れてみてはいかがでしょうか。


公認会計士・税理士 

畑中 外茂栄

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